調理は多くの家庭で日常的に行なわれる創作活動であり,基本的に一人で 行なうにもかかわらず多数の手順と並列作業を含む複雑な作業であるため, その支援が求められています.
従来の調理支援は,調理番組やWEBのレシピポータルなど,調理の初めか ら終わりまでをどの調理者に対しても同じように提示する「システム(発 信者)主導型」でした.しかし人間が調理をしている状況では,どうした らいいかわからないときや,やり忘れたときは教えてほしいけど,知って いることを教えられたり,やろうとしていることと違うことを指示された りするのはわずらわしいものです.
つまり,調理を支援するには,一から十まで逐一教えるのではなく,調 理の進行状況に応じて適応的に対処できることが必要です.そこで,調理 者(ユーザ)にとって必要なタイミングで必要な支援を行なうことができる 「ユーザ主導型調理支援システム(スマートキッチン)」の実現を目指して います.
具体的には,調理者の行動を妨害せずに観測するマルチセンシング技術を 用いた調理行動認識技術,調理者を支援すべきかどうかを判断するレシピ との相違検出技術,調理者に支援内容をうまく伝えるための共通理解獲得 技術の3つについて研究を行なっています.
調理では水や油による汚れが発生するため,通常のマルチセンシングで用
いられる接触型あるいは近接設置型のセンサを利用することができません.
一方,加熱や冷却により物体の温度が著しく変化すること,包丁やコンロ
などにより様々な音が発生すること,様々な調理器具が使われることなど,
調理特有の特性を備えています.
調理者のレシピ通りでない調理行動をレシピと比較し相違を検出する方法
を研究しています.加工動作の個人差,同じ種類の食材でも個体差が大き
いこと,調理者の調理行動がレシピと多少違ってもかまわないといった
自由度から,相違の検出は状況依存にならざるを得ない.そこで,レシピ
を知識として,調理の流れのなかで食材や調理動作を理解することにより,
状況依存性に対処する研究を行っています.
調理者とシステムが調理スペースを共有し,共に観測している利点を生
かして,対話により共通理解を獲得する方法を研究します.複数の食材
を混ぜたものや,たくさんの加工を経た食材は,それを直接指し示す名
前がありません.このような食材について,調理者とシステムの間で
“この食材は○○と呼ぼう”といった共通理解を対話の中で確立する
ことにより,円滑な音声コミュニケーションを行う機構の研究を行って
います.
可視光カメラや赤外線カメラ,ステレオマイクロフォン,振動収録用マイクロフォン,三次元センサーなど,多様なセンサーにより調理状況を観測し,音声認識・合成により音声対話可能なキッチンシステムを構築しています.