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時空間制約の選択的緩和と経路制約の導入による多人数多カメラ間対応付け

人物ごとの訪れた地点と時刻の記録である移動履歴の獲得を,多数の人物に対して行うことができれば,商業施設では店舗や商品の配置の改善や類似スポットの発見などに有用な情報が得られる. この移動履歴の獲得は,人手で行うには大変な時間と労力と費用が求められるため,自動化できることが望ましい.

そこで本研究では,一般に商業施設に設置されるような,既存の固定カメラで撮影された画像を用いて自動で移動履歴を獲得することを考える. これらの既存のカメラは,複数個が互いに視野の重複の無いように置かれているものとする. そのため,これらのカメラを用いて移動履歴を推定するには,視野同士の間に他カメラの視野を経由せずに移動を行えるような経路が存在する隣接カメラ間で,撮影された人物の対応付けを行う必要がある. 対応付けが全て正しく行われれば,各人物に対してその撮影時刻と撮影場所を時刻の昇順に参照することにより,人物ごとの移動履歴を推定することができる.

従来の人物対応付けでは,隣接する2カメラ間で,人物のカメラ視野間の移動時間と画像の特徴量という2つの情報をもとに類似度の計算を行い,類似度の高いものを対応付けする,という処理が行われている. この従来手法では,隣接するカメラ視野間を移動する時間は人物によって大きく変化せず,またカメラ視野間で人物の見えは大きく変化しない,という仮定が置かれている. さらに,あるカメラの視野から隣接するカメラの視野への移動は必ずある時間以上かつある時間以内の時間で行われる,という時空間制約を導入し,対応付け相手の候補を絞り,対応付け精度を高めているものもある. しかし,この従来の人物対応付けには,次の2つの問題が存在する.

第1に,観測される人物がカメラ視野間での立ち寄りや立ち止まり,即ち滞留を行うと,移動時間が大きく変化しうる. この滞留は,例えばカメラ視野間に小売店,便所,休憩所,看板,展示品などの,人物が立ち寄るべき箇所が存在した場合に発生しうる. その結果,時空間制約を用いて対応付け相手の候補を絞ることが難しくなる,という問題が発生する.

第2に,ごく単純な構造の通路を除いては,必ず人物を一定の方向から撮影できるようにカメラを配置することはできないため,カメラごとに人物の撮影方向は変わりうる. 加えて,屋内外での日照の有無,天候の変化,電燈の光の明るさや色相の違い,といった要因により,カメラごとに照明条件が変わりうる. これらの原因により,カメラ間で人物の見えが変化する問題が生じる. その結果,同一人物であっても外見の特徴を用いた対応付けが難しくなる.

以上の2つの問題に対し,提案手法では次の2つの方法で対処する. 第1に,移動速度が変化することによって移動時間を用いた対応付けが難しくなる問題には,時空間制約を選択的に緩和し,画像の特徴量を重視したした人物対応付けを行うことで対処する. これによって,当該人物が滞留を行ったか否かに係らず正しく対応付けができる. 第2に,見えが変化することによって画像の特徴量を用いた対応付けが難しくなる問題には,経路制約を導入した対応付けを行い,他のカメラの情報を用いて対応付け相手の候補を限定して対応付け精度を上げる. ここに,経路制約とは,ある人物が異なる任意の2つのカメラで観測されているときに,その2つのカメラ視野を結ぶ経路上に存在する別のカメラでも必ずその人物が観測されているはずである,という制約である. この制約は,人物対応付けの際に参照する隣接する2カメラとは別の,対象の人物が撮影されているカメラの情報も参照することで,従来の時空間制約をさらに強力にしたものである. これによって,対応付け相手の存在する区間を限定して,外見の似た別人を対応付け相手候補から除外し,隣接2カメラ間で人物の見えが変化する問題に対処する.

固定カメラ映像を用いた人物対応付けにおける提案手法の有効性を確認するために,商業施設に設置された固定カメラの映像に対して移動履歴の推定を行い,人物対応付け精度の従来手法との差異を評価した. 人物の滞留の発生率と見えの変化の発生率の2条件を変化させた多数のデータセットに対して提案手法を適用した結果,人物対応付けの精度が最大で13.1%上昇するという結果を得た. また,その他の全ての条件の組み合わせにおいて,提案手法を用いた人物対応付けの精度が従来手法の精度を上回り,提案手法の有効性が確認できた.

今後の課題としては,実環境での人物対応付けを行って精度を評価すること,時空間制約の緩和の程度の設定基準を検討すること,などが挙げられる.