内容梗概
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音声による調理法教示のための対象食材の呼称の決定


料理の本を見ながら調理を行うのは手元から目を離さなければならず危険である.ここで,[加工名]は,“切る”等,料理本で用いられている表現をそのまま用いることができるが,[食材の呼称]は,料理本に該当する用語が存在しない場合が多い.料理の本では,前の手順や材料のリストをいつでも参照できるため,というように,前の手順で加工した食材をその手順の番号で1つの記号たりすることができる.しかし音声により食材を指示する場合は,前の手順や材料リストを調理者が完全に記憶していると期待することはできないため,調理者のその食材に対する理解の仕方にあった呼称で指示しなければ,調理者がその対象食材を見つけることができない.そこで,本論文では,調理中に現れる個々の食材に対し,調理者が対象を特定できるような[食材の呼称]を決定する手法について提案する.

まず,料理番組や料理本を分析し,食材は,「[いま|さきほど][加工名]したもの」というように,その食材に最も最近加えた加工名を用いる“時間的呼称”と,「[材料名]と[材料名]のまざったもの」というように,その食材を構成する材料名を用いる“構成的呼称”の2種類の呼称で呼ぶことができることについて述べた.ただし,これらの呼称で必ずしも対象食材が一意に特定できるとは限らない.時間的呼称は最後に同じ加工を加えた食材が複数存在するとき対象食材を特定できない.また,構成的呼称は同時に存在する異なる食材が同一材料を含むとき,対象食材を特定することができない.

そこで,調理中に出現する食材を調理状況ごとに分類し,食材を特定できる呼称を選別する手法を提案した.さらに,2種類の呼称どちらでも食材を特定できる場合,どちらの呼称がわかりやすいかは,個々の調理者の嗜好に依存するのではないかと考えた.

食材の置かれている調理状況ごとにどのような呼称が好まれるか,また,2種類の呼称どちらも用いることができると分類される食材の場合,どちらの呼称をより好むかを調べるため次のような実験を行った.調理を擬似的に行うことができるシミュレータを作成し,被験者に音声ガイダンスを聞いてもらい調理を行ってもらった.ガイダンスに含まれる各食材の呼称について,対象物を特定できたか,またわかりやすかったかのアンケートを行った.

%予備実験では5名の主婦を対象にアンケートを行った.まず,2種類の呼称をランダムに与えた音声ガイダンスについて呼称の評価をしてもらい,その結果を元に過半数の被験者が好む呼称を与えた“一般向けガイダンス”と,個人の好みに合わせた呼称を与えた“個人向けガイダンス”を作成した.これら2つのガイダンスについて,1週間後同様のアンケートを行い,再評価してもらった.その結果,5人中4人は,個人向けガイダンスのほうが一般向けガイダンスよりいいと評価したことから,一週間程度では変わらない個人の嗜好の違いがあることがわかった.また,5人中3人はランダムに呼称を与えたガイダンスより一般向けレシピの評価のほうが良いことより,ランダムなものよりは平均的に好まれる呼称を与えたほうがわかりやすいことが示唆される.

本実験では,30〜70代の主婦18名を対象にアンケートを行った.2種類の呼称をランダムに与えたガイダンスからなるレシピを2つ用意し,それぞれの呼称がわかりやすかったかどうかを評価してもらった.これにより,食材の調理状況の分類ごとにどのような呼称が好まれるか,また,個人の好みには一貫性があるか調べた.その結果, 加工は加えられているものの1つの材料から構成される食材については,61.1%の被験者は2つのレシピで両方で同じ呼称を好んでおり,2つのレシピで好む呼称が違った被験者は5.6%しかいなかった.また,複数の材料からなる食材では,55.6%の被験者が2種類のレシピにおいて同じ呼称を好んでおり,2つのレシピで好む呼称が違った被験者は16.7%だった.これより,個人の好みにはレシピにかかわらず一貫性があることが認められた.また,理論上,時間的呼称では対象食材が特定できない食材については,やはり構成的呼称が好まれるが,その構成材料数が増えるに従い構成的呼称の評価は悪くなっていき,構成材料数が8個のとき時間的呼称と構成的呼称の評価が逆転した.さらに,理論上,構成的呼称では対象食材を特定できない食材については,一つ前の手順で加工した食材にそのまま次の加工を加える場合は時間的呼称が好まれたが,それより過去に加工されたまま置かれていた食材に加工を加える場合は,個人によって好む呼称は一様ではないことがわかった.

以上の結果より,音声により調理教示を行う際,未知あるいは既知の調理者にとってわかりやすい食材の呼称を決定するための判定基準が明らかになった.この基準に基づき,レシピより調理教示のための音声ガイダンスを自動生成するシステムを構築することが今後の課題である.


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