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モーションプロセッサを用いた布形状のモデル化


現実世界の物体の位置や形状を計算し、その時間変化を計算機上でシミュレートする試みは、従来から CG を中心に盛んである。その中で、対象物体は近年までほとんど剛体に限られていた。これは柔軟物体のもつ幾何学的・物理的特性が剛体よりはるかに複雑であるため、柔軟物体の 3 次元的なふるまいの再現にあたってはそうした複雑な特性を反映させなければならず、計算量が大幅に増大するからである。今日では手法の開拓とハードウェアの進化によって柔軟物体を扱うことが可能となってきている。

布の形状を記述し、その時間変化を計算するには、計算機上に布のモデルを構築する必要がある。布のモデル化に関しては大きく分けて幾何学的手法と物理的手法があり、近年ではそれらのハイブリッド的な手法も提案されている。一方、モデルにおいて布の特性を表現するパラメタの決定方法に関しては、従来 CG の分野では現実世界における実現形状によく合致すると感じられる形状を得るために人間の経験に基づいてパラメタを調整する方法が一般的であった。この方法でさまざまな形状をよく再現するパラメタを獲得しようとすると、布の複雑な特性ゆえに所要時間を抑えることは難しい。このため、対象となる布の物理特性を測定し、これを直接モデルに取り込む手法が考案され、広く利用されている。布の実際の特性を取り込んでいることから、得られたモデルパラメタは時間変化を含む種々の形状を正確に再現する能力を持つことが期待されるものの、特殊な計測装置を必要とする上にパラメタの計算コストは多大なものとなる。さらに、布の視覚形状の再現に主眼を置いた場合、必ずしもすべての物理特性が必要であるとは限らないから、力学特性を測定する方法は必ずしも得策とは言えない。

本研究では、測定対象となる布の物理特性を実際に調べることなく、しかも実際の布の特性をある程度反映して種々の形状が再現可能な布のモデルパラメタを獲得することを目標とする。このために、いくつかの形状を比較的単純な装置で観測し、モデルがそれらの観測形状に最も近い形状を持つように布のモデルパラメタを調整させることにより、観測形状を含む種々の形状を再現することを目指す。形状観測には装置が簡単で取扱も容易であり、さらに物体の時間的な形状変化を観測できる 3 次元計測装置であるモーションプロセッサを用いる。本研究では特に静止形状の再現を目的に、モーションプロセッサを用いて観測した静止形状のデータから、さまざまな静止形状を表現可能なモデルパラメタを獲得する手法を提案する。

布のモデルとしては一般的な物理的モデルであるマス・スプリングモデルを採用し、モデルが観測された静止形状を静止形状として持つように、観測形状からのずれと力の非平衡を表す 2 つのエネルギー関数をモデルの質点ごとに定義し、最急降下法を用いて関数の和が極小値をとるようなパラメタの値を求め、最終的に布のモデルを構築する。

本手法の妥当性を検証するため、まず 1 種類および複数種類の観測形状を用いて獲得したモデルによってそれ (ら) の形状を再現する実験を行った。次に、複数種類の観測形状から得たモデルによって、それらとは異なる形状をどの程度再現できるかを確かめる実験を行った。これらの実験の結果、この手法によって得られたモデルは観測形状をよく再現し、未知形状に関しても比較的精度のよい再現形状が得られることを確認した。本実験の結果、モーションプロセッサを用いることにより、布の力学特性を測定してモデルに持ち込むことなく、現実世界において布のとる複雑な形状を計算機上で再現可能であることが立証された。


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