内容梗概
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仮想物体操作の与える空間的制約を利用した個人知覚情報の獲得


仮想空間において、3次元位置入力装置と立体視装置という3次元入出力を使用して物体操作を行う場合に、現実世界における場合と比較すると操作が思い通りにならないという問題がある。この問題の原因の一つとして、仮想空間と、ユーザが立体視によって知覚する3次元空間にずれが生じているということが考えられる。本論文では、この二つの空間のずれを補正することで、ユーザの物体操作がユーザの意図通りに実行できるようにする手法を提案する。

立体視装置では、視差画像を用いてユーザに仮想物体の3次元形状を提示するが、人間は現実世界では両眼視差以外の要因も使って立体視をしているため、立体視装置で提示する視差画像を生成する際に、仮想空間中に配置する視点間の距離などを実際のユーザの瞳孔間距離などと合わせてみても、それによってユーザに知覚される空間は仮想空間とは一致しない。この結果、仮想空間で操作対象となる物体を指示するために用いる``ポインタ''を移動させる際、対象物体の表面で止めたつもりが実際にはその内部にめり込む、逆に遠く離れたままであるといったことが頻繁に起こる。

本研究では、仮想空間とユーザが知覚する空間の間のこのようなずれを補正することを考える。このためにまず、ユーザが物体を操作しようとする場合に、ポインタと物体が接触しているかどうかの判断が、両者の距離に対する、ある閾値(誤差の閾値と呼ぶ)に基づいて行われていると仮定する。このときの誤差の閾値とは、二つの物体が正確には接していない場合でもユーザが接していると許容する距離の最大値であり、ユーザごとに違う値を取ると考えられるが、同じユーザに関しては同じ値をとるものとする。仮想空間におけるユーザの操作の失敗は、視差画像からユーザが知覚する空間と仮想空間とのずれが、この誤差の閾値を上回ることによって生じるのではないかと考える。従って、ユーザによる物体操作の各局面で、ユーザが知覚する空間と仮想空間とのずれを誤差の閾値以下に抑えることができれば、ユーザによる物体操作というタスク実現の上では十分である。

そこで、仮想空間とユーザの知覚のずれが誤差の閾値を上回っている場合を検知するために、仮想空間における物体操作が正しく行われる場合には当然成立しているべき状況に関する事前知識を利用する。すなわち、ユーザが仮想物体を操作する場合、ユーザにとっては現実世界と同様にポインタと操作物体は誤差の閾値以下の距離で接触しているように知覚されているはずである。この条件を本研究では物体操作における空間的制約と呼ぶ。すなわち、「ユーザは、空間的制約が満たされていると知覚した上で操作を試みる」という前提をおく。この前提に基づいて、ユーザが操作を始めた時点で、ユーザがポインタで触れようと意図している仮想空間中の点(操作点と呼ぶ)を求め、この操作点とポインタの間の距離と誤差の閾値とを比較する。もし操作点とポインタの間の距離が誤差の閾値よりも大きい場合には、上記の前提にも関わらず、仮想空間においては空間的制約が満たされていない、つまりユーザの知覚と仮想空間の間に操作上問題があるほどのずれが存在すると考えることができる。従って、この場合には空間的制約が満足されるように仮想空間を修正することを試みる。

ここで、仮想空間自体を直接修正すると、生成される視差画像が変化し、それに伴ってユーザの知覚も変化してしまうので、仮想空間を初期状態とするもう一つの空間を用意し、その空間をユーザの個人知覚情報によって修正する。この空間をモデル空間と呼ぶ。

モデル空間の修正は、まず、視差画像を見たときのユーザの知覚を、ユーザの目を二つのカメラで置換えた立体視としてモデル化する。二つのカメラ間の距離、カメラの焦点距離という立体視のためのパラメータを変更すると、視差画像から得られる3次元位置は変化するので、これを利用して、モデル空間を修正する。

ただし、このような立体視としてモデル化されたユーザの知覚は、仮想空間全体に対して、同じパラメータを持つとは考えられないので、仮想空間の場所ごとにそれぞれ独立にパラメータを設定し、場所ごとに得られるユーザの個人知覚情報を元に、これを修正する。この修正は、それまでに得られた近隣領域のパラメータと比較して、パラメータの値が大きく変化しないという拘束条件の元で変更し、パラメータに加えて誤差の閾値も併せて修正する。このような処理を通して、最終的に誤差の閾値、モデル空間の修正は操作の成功率が上昇する方向で収束していくと期待される。

複数の被験者に対する実験により、モデル空間は有限個の個人知覚情報で修正され、物体操作の成功率が上昇することが確認された。


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